体が痛む。
内からも外からも、痛みが襲う。

国としても人としても、痛みを覚える。


ここ何十年で特にローデリヒの体は軋んでいるように思 える。

原因は分かっている。けれど考えたくはない。





「か、っ」

起き上がろうとしたのに肩を踏まれてまた地べたに這い 蹲る。
それと同時に耳障りな高笑いが聞こえた。

不快だった。こんな雑音のためにこの鼓膜はありはしな いのに。


「ホラホラよぉお!なんか言う事あるんじゃねぇか、 ローデリヒさんよ!」


品のない笑い声と共に肩は開放される。

けれど次にはもっと大きな響きがあった。
視界が白くなり頭が弾けるような痛み。

ギルベルトは戸惑いもなくローデリヒの頭を今度は踏ん だのだ。
土よりも岩に近い地面だから余計に痛い。
更に体重を乗せられて、ローデリヒの頭蓋がギリギリと 鳴る。
痛みに目を瞑り唇を噛んだ。

「はははははっ!!ほら、負けを認めて許してくださ いって言ってみろよ、もう少し手加減してやってもいいだぜぇ!!」
「…戦場で、…寝ぼけないで下さい、お馬鹿さん…」

「戦場で俺の靴の下で寝ている奴に言われたくねぇよ、 なんなら目を覚ましてやろうか?あ?」
「!」

頭を蹴られ、体が人形のように転がる。
首が外れるかと思ったが、こんな打撃ではきっとこの体 は壊れはしないんだろう。
急に戒めから逃れた頭蓋はクラクラするだけだ。口の中 の血がまた溢れて舌に苦い。

けれどローデリヒはそれでやっと視界が自由になったか らその男の顔を見上げた。
斜面の岩場に近い場所だから余計に動きにくいからこん な体ではうまく動けはしないけれども。
赤い瞳を細めてニヤニヤと愉しそうに笑っている。



「跪いて全部、俺に貢げよ。」
「誰が。」

思ったよりもまだハッキリと声が出た。

最後まで強がる意味をローデリヒは考えた。
同じなのだ。
ここで彼に降伏しても更に甚振られようとも奪われるも のは多分どちらにしろ全部だ。
ならばローデリヒはいつものように振舞っていたかっ た。
人ではない自分はその死は歴史に刻まれ延々と語られま たは謡われる。
美しい音と言葉で無様にこんな男に膝を折る様をこれか ら先延々と何百年も語り告げられる事だけは許せなかった。

けれどギルベルトはそんなローデリヒの考えを見透かす ようにまた嘲笑い低い声で怒鳴る。


「見っとも無いなんて今更だろうよ、お貴族さまよ!」


「…お黙りなさい。」

その先を言われたくなどない。

だからローデリヒは紫の瞳で睨みあげた。
その瞳はまだ僅かに昔この一帯の支配者だった頃の威圧 の面影を残していた。
普通の者ならば少しでも怯ませられたのだろうけれども ギルベルトはそれさえも鼻で笑う。
最後の足掻きを紙のように軽く破いてしまう。

「く、っあっ!!」
そしてローデリヒの腹をまた蹴り上げられら。
少し体が浮く。


内臓がズレたような衝撃の後に全てが吐き出されそうな 気色の悪い痛みがあった。
「げ、…ご、ほ…」




「お似合いだぜ。」
やめろ。言うな。

「もう遅ぇだろ。」
「や、、…な、さい。」










ずっとずっと語り告げられるんだろう。

数え切れない人間の言葉で語られ伝えられていくんだろ う。








民に。紙に、絵に。
ローデリヒの愛している音に。

それをローデリヒはもう分かっていて諦めていた。









だけれどそれでも聞きたくはなかった。














許せなかった。












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