ローデリヒは胸の懐中時計を開けて時間を確認した。
薬を投入して10分。もう回る頃だろう。

部屋の隅の汚い椅子に座って目を閉じていたローデリヒはゆっくりを身を起こしギルベルトに視線をやる。


ベットの上で僅か体を持ち上げようとしているがそれで も力が入らないのか腕が震えている。

吐息は触れているわけでもないのに熱いのが分かる。
汗がヒタヒタと流れていた。

近づく。

「…辛いですか?」

微笑んで手を伸ばした。
綺麗なラインの顎を黒手袋の指で撫でる。

それだけでギルベルトの体が僅かに 震えた。

「て、めぇ…」
「…これが上のお達しな物でして。」

赤い目は薬のせいで揺らいでいるとはいえやはりこんな 暗い部屋でも色付いていた。
けれど今ならこの瞳を正面に見据える事が出来る。

銀の髪に映えていてこの色は元々嫌いではない。

ローデリヒは美しいものは好きだ。

「っ…!!」
そのまま頬を撫でてやればまた体が揺れていた。
薬のせいで敏感になってる神経に戸惑う悩ましい表情は なかなか絵になっている。


それがいい。
乱れて崩れてしまえばいいのだ。
そうすればこの瞳が見れる。穢れてしまえ。

「っあ!」

胸を撫でてやると背を弓なりにして喉を鳴らした。
顔を見ればそんな自分が信じられないような顔をしてい る。
服越しでも体は熱い。

「素敵ですね…」



うっとりとした声でそう囁いてやる。


もっと。

もっとその瞳を揺らしておくれ。

ギルベルトは唇を噛んで目を閉じる。



「さぁ良い声で甘えてごらんなさい。自分から足を開く のなら可愛がってさしあげますよ。」




「………」

耳元で囁く。

「ギルベルト…?」

できるだけ優しい温度で名を呼ぶ。

−さぁ、さ。

熱に魘されて、溶けてしまいなさい。

液体になっても受け皿くらいは用意をしてやろう。





そして、返されたのは熱の篭った声で−


「…それは楽しそうな提案だなぁ……ローデリヒ?」
「っ!?」

名を呼ばれそして… 
 見据えられる。

はっきりと見上げられ る。あのロートの瞳で。
ここ何十年も見なかったほどのギルベルトの鋭い眼光。




全てを見下し、踏み躙り、力で生き延びた己の獣さえも 飼い馴らす騎士の瞳だ。





ローデリヒの一番恐れていた瞳だ。


(あ…)
ローデリヒの顔が強張ったのは自分で分かった。
そんなローデリヒに気づいたのかそれとも本能でなのか。
ギルベルトは巻くし立てるように言葉を続けた。



「…そして、媚びて?喘いで?服従して?」



ギルベルトはそんなローデリヒをゆっくりと鼻で笑うの だ。

そして言う。
ゆっくりと熱を薙ぎ払い、低い声でクッキリ、と。

言って欲しくなかった言葉。


「昔の、お前みたいに?」


「………っ!!!!」


昔の。

(あの頃、の)

自分から。


声をあげて。

女みたいに。
甘え、請い、
…喘いで。

堕ちて。

自ら


(あ)





『身を委ねなさい。刃よりは優しいよ。』

『これで誰も死なない。いいだろう?』

『綺麗だね。ローデリヒ。』

『さぁ次はどこに嫁ぐ?』


『お前に剣などいらない。』


そして

あの時、ボロボロの自分を踏み躙った時に言ったよう に。








『足を開いて腰揺らして媚売って生かしてもらっていた 犬のふさわしい様だろう?』

あのときに自分に投げつけたギルベルトの言葉。

(あ)
言わないで。やめてくれ。





―     やめろ!



「っ!!!」

平手の音。



一瞬意識が遠くにいってしまいそうだったのをその音で 覚ます。


「…お黙りなさい。」

ギリギリと睨んでいる。

けれどやはりギルベルトはそれを無視する。
そしてそのまま嬉々と叫び笑うのだ。


「あ、ははは、、、
強がるのも大概にしろよ。淫売!」


ケラケラとギルベルトは縛られた腕も薬の入った体さえ 分かっていないような態度で笑う。

叩かれた頬は思ったよりも赤いのに、痛みさえ知らない ような顔。

暗い部屋の中で笑い声が響いてローデリヒは眉をしかめ た。

さっきまで崩れかけていた赤い瞳に光が戻りローデリヒ を射るように見て。
見下すようにローデリヒを見ている。

まるであのときの笑い声。
思い出す。
自分をあの戦場で踏み躙り、罵り、見下したあの時と同 じ男の声。

そして。


思い出させるな、思い出させるな!


見上げるその瞳は、あの時の−


  その目で私を見るな!



「そうだよな、苛つくよなぁ!
俺がお前に王冠もらって 剣で成り上がっている最中、お前は娼婦みたいに自分から足開いて生き延びていたんだものなぁ!はははは、ざまぁねぇな!」


「黙れと言っているでしょう…」

「ヴィッヒにも見せてやりたかったな!
お前が何回も別 の男に媚売ってた時のお前の面!
あぁあ気色悪かったぜ!かつての支配者がよ、女々しく色気振りまいている様なんざ滑稽でさ!」


−ッ!!!


「―  黙りなさい。」

もう一度叩く。
出来るだけ冷淡に、静かに声を振り絞る。


恐れるな、怯むな。震えるなど持っての他だ。

ここで逃げたらローデリヒはもうきっと元に戻れない。


ごまかせなくなる。それだけは駄目だ。



今度はかなりの力だったと思う。
非力になった自分とはいえ、これだけ無防備な頬を叩け ば相当な痛みのはずだ。
歯で切れたのだろう。
ギルベルトの口から僅かに血が飛ぶ。
ゴツリと重い音をたてて襟を掴んでいた手に力を込めて 壁側に再び押し付けた。


今の彼にはかなりの負担のはずだ。
やはり唇が切れたせいか喋っていた口を閉じている。
どう足掻いても消えない熱に体と表情は
それでも。
やはり自分を見上げるギルベルトの瞳は−





あの時、射られ焦がれて、そして。

もう二度と望んではいけないあの ロートだった。












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